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「継伝」と綴られたこの本は、世界にたったひとつしか存在しない。
人が、生きた証を、知恵を、子や孫に伝え継ぐために編纂されている。
自分の最も身近で、一番の理解者の人生は、まさに叡智の集積である。「継伝」は公向けの文章とは違い、温かみがあり、読むと、そこに親がいるような気持ちになる。

 

「継伝」の取材から、1冊の本へまとめあげることまで、全て手がけているのはニッチノーマス代表の細田次郎さん。島根で生まれ育った。

 

「島根は人口のあまり多くない土地です。だからこそ、世代間のつながりがより強く、大切に感じられるのかもしれません。先を生きてきた人たちが、見てきたものや学んできたことを、子へ、孫へ繋いでいきたい。どんな人生にもオンリーワンの物語があり、価値がある。人生は尊いものだということを伝えていきたいんです。」

 

 人と、その人が歩んできた人生を深く見つめ、本というかたちあるものにしていく細田さんは使命感と情熱に溢れている。紆余曲折を経て辿り着いた「継伝」制作という事業。根底には、今までの沢山の本との出会いがあるという。

 

「学生の頃は、何もできない自分に悩み、苦しんでいました。そのときに読んだ書籍たちに救われたんです。色々な本を読むにつれ、悩んでいた自分のことじゃなくて、人のことを考えるようになった。考え方が変わると、自然にすごく人生が好転していったんです。そして、将来は自分で事業を起こし、人のため、世の中のためになるような仕事をしたいと願うようになりました。」

 

 これまでにも何度か起業を試みたが、開業までには至らなかった。2年前に勤めていた職場を通じて(榎田)先生の講義に出会う。もう一度起業を試みたいと考えていた時期だったが、結局、講義が終わるのを待ち、彼は自分の事業を始めることとなる。

きっかけは「親子のカフェ」
「僕は子供が二人いて、子育てもやっていたものですから、お母さんの気持ちがすごく分かるんですよね。母親の大変さとかストレスっていうのが。
そういうストレスを解消するような場所がこの辺りには無かったので、そういう場所があったらいいなと思っていて。」

 

 戦略を練り、飲食店経営者に話を聞いたり、実際に関東や関西で親子カフェを出店しているオーナーのところに足を運んだりもした。ところが会う人全てが賛成しなかった。
「なんでかっていうと、この形態は対象顧客がほぼ子持ちの母親だけなので、夜に足を運びにくいとか、回転率が悪いとか課題がたくさんあるんですね。」

 

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 そして一番大きな問題は「島根の人口」だったという。

 

「出店予定地の、0歳から5歳の子供をもつお母さんの数や、増加する保育園の数などを調べていくと、今から10年後には、どう考えても何をやっても採算がとれない。これはどうしようもないなと、そこできっぱり諦めたんですよ。」

 

 しかし、不思議とそこで起業を諦める気がしなかった。却って、自分の夢に近づいたような気さえ、していた。

 

「今日本は高齢化社会だと言われていますけど、人口を見た時に65歳以上の人口は島根でもまだまだ多い。やはりこの世代の方に喜んで頂ける事を考えないといけないなと感じたんです。それで、高齢者の方々が何をしたいか調べたら、社会貢献をしたいという人が多い。年を取ってからでも仕事をしたい人が多いのは、社会貢献したい人が多いからだという。そこで、高齢者の方が社会に貢献できることって何だろうって考えたんです」

 

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「僕は起業を目指していた事もあり、社会に出てからもずっと本を読んできたんです。親子カフェ断念で、また失敗かぁ、と思ったけど、今まで読んできた本は僕の生きる糧になっている。
本を読まなきゃいけないっていうことはないんですけど、普段読まない人でも読めるような誰でも読みたくなるような本はないかなってその時思ったんです。」

 

 そのような思案から思いついたのが、この家族の本。家族の本であれば誰でも読みたくなるし、学びになる。親や祖父母は同じ遺伝子で繋がっているわけだから、必ず考え方に似た部分を持った上で人生を先に歩んでいる。親の学びは、実は子や孫にこそ一番の学びに繋がるのではないかと考えた。

 

本の内容は5つのテーマで成り立っている。
①生い立ち ②歴史・伝統・文化 ③暮らしの知恵 ④教訓 ⑤想い

 

「これはどうやったら読みやすくなるか、読みたくなるか、そこを最大限に考慮して構成してるんです。だから字の大きさも子供が読める大きさにしているし、写真もたくさん入れている。」

 

「継伝」は本ができることだけがいいことではなくて、その過程の、自分の足跡を本気で聞いてくれる人がいるとうことも、高齢者にとって、これほど嬉しいことはなかなかないのだ。
しかし、話を聞く側は、繊細で粘り強い取材が要求される。

 

「僕の場合は聞くばっかりで、喋るのってそんなに得意じゃないんです。人の話

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を聞くのがすきで、全然苦じゃない。真剣に聞いていたら、すごく色んなことを教えて頂けます。それは絶対学びに繋がる。」

 

細田さんにとってはこの仕事は「天職」なのだという。

 

「皆さん様々な人生経験をしておられる。70代、80代の方は戦争も経験しておられる。でもそういった足跡を家族間で伝え残す文化ってないじゃないですか。それってすごく勿体ないなって。そのまま消えてしまっているのが。」

 

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家族だけでなく、社会にとっての文化的な価値。
始めてみると、「継伝」には想像以上の価値や可能性があった。

 

「自分史」というと自己満足的な印象を拭いきれない。
「継伝」は子供や孫に役に立つことを残すとう主旨で、自分史とは一線を画す。
この取組みが広がれば、社会全体の意識が底上げされると言っても過言ではないのではだろうか。

 

「一家に1冊は継伝を持っています、という風になればいいなと思っています。結婚式をあげる、お墓を建てるといったような、やるのが当たり前だというものの中に、継伝もあったらいいなって。例えば、退職の祝い、長寿の祝いには継伝を作ろうかって。」

 

 この取組みを全国に広げ、新しい文化にしていきたいと語る細田さんに、最後に将来の夢について伺った。

 

「僕みたいなどうしようもなかった人間でも考え方と行動を変えて、コツコツやっていけば、人を幸せにして、自分も幸せになれるんだという事を示したい。そして少しでも自信が持てなくて悩んでいる人の勇気となれば嬉しいです。
僕が60代、70代になったときに、継伝が世の中に広まっていて、継伝を作った僕の継伝も作ってもらって、僕なんかでもこれだけのことができたんだよって言いたい。それが、またたくさんの人の学びや人生の役に立てば、こんなに素晴らしいことはないなって思いますね。」

 

この事業を始めてから、様々なご縁と、不思議な巡り合わせが次々と起きるのだという。正しいことをやっているからこそ、見えない力に応援されているのだろうか。
縁結びの地、島根から「継伝」という新しい文化の芽がでて、育ち始めている。今後も目が離せそうにない。
(濱田奈穂)

-生きた証が道しるべとなる「継伝」

「継伝」と綴られたこの本は、世界にたったひとつしか存在しない。

人が、生きた証を、知恵を、子や孫に伝え継ぐために編纂されている。

自分の最も身近で、一番の理解者の人生は、まさに叡智の集積である。「継伝」は公向けの文章とは違い、温かみがあり、読むと、そこに親がいるような気持ちになる。

 

「継伝」の取材から、1冊の本へまとめあげることまで、全て手がけているのはニッチノーマス代表の細田次郎さん。島根で生まれ育った。

 

「島根は人口のあまり多くない土地です。だからこそ、世代間のつながりがより強く、大切に感じられるのかもしれません。先を生きてきた人たちが、見てきたものや学んできたことを、子へ、孫へ繋いでいきたい。どんな人生にもオンリーワンの物語があり、価値がある。人生は尊いものだということを伝えていきたいんです。」

 

 人と、その人が歩んできた人生を深く見つめ、本というかたちあるものにしていく細田さんは使命感と情熱に溢れている。紆余曲折を経て辿り着いた「継伝」制作という事業。根底には、今までの沢山の本との出会いがあるという。

 

「学生の頃は、何もできない自分に悩み、苦しんでいました。そのときに読んだ書籍たちに救われたんです。色々な本を読むにつれ、悩んでいた自分のことじゃなくて、人のことを考えるようになった。考え方が変わると、自然にすごく人生が好転していったんです。そして、将来は自分で事業を起こし、人のため、世の中のためになるような仕事をしたいと願うようになりました。」

 

 これまでにも何度か起業を試みたが、開業までには至らなかった。2年前に勤めていた職場を通じて(榎田)先生の講義に出会う。もう一度起業を試みたいと考えていた時期だったが、結局、講義が終わるのを待ち、彼は自分の事業を始めることとなる。

きっかけは「親子のカフェ」

「僕は子供が二人いて、子育てもやっていたものですから、お母さんの気持ちがすごく分かるんですよね。母親の大変さとかストレスっていうのが。

そういうストレスを解消するような場所がこの辺りには無かったので、そういう場所があったらいいなと思っていて。」

 

 戦略を練り、飲食店経営者に話を聞いたり、実際に関東や関西で親子カフェを出店しているオーナーのところに足を運んだりもした。ところが会う人全てが賛成しなかった。

「なんでかっていうと、この形態は対象顧客がほぼ子持ちの母親だけなので、夜に足を運びにくいとか、回転率が悪いとか課題がたくさんあるんですね。」

 

 そして一番大きな問題は「島根の人口」だったという。

 

「出店予定地の、0歳から5歳の子供をもつお母さんの数や、増加する保育園の数などを調べていくと、今から10年後には、どう考えても何をやっても採算がとれない。これはどうしようもないなと、そこできっぱり諦めたんですよ。」

 

 しかし、不思議とそこで起業を諦める気がしなかった。却って、自分の夢に近づいたような気さえ、していた。

 

「今日本は高齢化社会だと言われていますけど、人口を見た時に65歳以上の人口は島根でもまだまだ多い。やはりこの世代の方に喜んで頂ける事を考えないといけないなと感じたんです。それで、高齢者の方々が何をしたいか調べたら、社会貢献をしたいという人が多い。年を取ってからでも仕事をしたい人が多いのは、社会貢献したい人が多いからだという。そこで、高齢者の方が社会に貢献できることって何だろうって考えたんです」

 

-本との出会いが自分を変えた

「僕は起業を目指していた事もあり、社会に出てからもずっと本を読んできたんです。親子カフェ断念で、また失敗かぁ、と思ったけど、今まで読んできた本は僕の生きる糧になっている。

本を読まなきゃいけないっていうことはないんですけど、普段読まない人でも読めるような誰でも読みたくなるような本はないかなってその時思ったんです。」

 

 そのような思案から思いついたのが、この家族の本。家族の本であれば誰でも読みたくなるし、学びになる。親や祖父母は同じ遺伝子で繋がっているわけだから、必ず考え方に似た部分を持った上で人生を先に歩んでいる。親の学びは、実は子や孫にこそ一番の学びに繋がるのではないかと考えた。

 

本の内容は5つのテーマで成り立っている。

①生い立ち ②歴史・伝統・文化 ③暮らしの知恵 ④教訓 ⑤想い

 

「これはどうやったら読みやすくなるか、読みたくなるか、そこを最大限に考慮して構成してるんです。だから字の大きさも子供が読める大きさにしているし、写真もたくさん入れている。」

 

「継伝」は本ができることだけがいいことではなくて、その過程の、自分の足跡を本気で聞いてくれる人がいるとうことも、高齢者にとって、これほど嬉しいことはなかなかないのだ。

しかし、話を聞く側は、繊細で粘り強い取材が要求される。

 

「僕の場合は聞くばっかりで、喋るのってそんなに得意じゃないんです。人の話を聞くのがすきで、全然苦じゃない。真剣に聞いていたら、すごく色んなことを教えて頂けます。それは絶対学びに繋がる。」

 

細田さんにとってはこの仕事は「天職」なのだという。

 

「皆さん様々な人生経験をしておられる。70代、80代の方は戦争も経験しておられる。でもそういった足跡を家族間で伝え残す文化ってないじゃないですか。それってすごく勿体ないなって。そのまま消えてしまっているのが。」

 

-新たな型の確立、そして文化へ

家族だけでなく、社会にとっての文化的な価値。

始めてみると、「継伝」には想像以上の価値や可能性があった。

 

「自分史」というと自己満足的な印象を拭いきれない。

「継伝」は子供や孫に役に立つことを残すとう主旨で、自分史とは一線を画す。

この取組みが広がれば、社会全体の意識が底上げされると言っても過言ではないのではだろうか。

 

「一家に1冊は継伝を持っています、という風になればいいなと思っています。結婚式をあげる、お墓を建てるといったような、やるのが当たり前だというものの中に、継伝もあったらいいなって。例えば、退職の祝い、長寿の祝いには継伝を作ろうかって。」

 

 この取組みを全国に広げ、新しい文化にしていきたいと語る細田さんに、最後に将来の夢について伺った。

 

「僕みたいなどうしようもなかった人間でも考え方と行動を変えて、コツコツやっていけば、人を幸せにして、自分も幸せになれるんだという事を示したい。そして少しでも自信が持てなくて悩んでいる人の勇気となれば嬉しいです。

僕が60代、70代になったときに、継伝が世の中に広まっていて、継伝を作った僕の継伝も作ってもらって、僕なんかでもこれだけのことができたんだよって言いたい。それが、またたくさんの人の学びや人生の役に立てば、こんなに素晴らしいことはないなって思いますね。」

 

この事業を始めてから、様々なご縁と、不思議な巡り合わせが次々と起きるのだという。正しいことをやっているからこそ、見えない力に応援されているのだろうか。

縁結びの地、島根から「継伝」という新しい文化の芽がでて、育ち始めている。今後も目が離せそうにない。

(濱田奈穂)